虹色を纏った収束

すべての場所

中くらいの拡散まで

 どうして意味という意味が消し去られた世界に投げ込まれてしまったか。君はそう問うたね。勿論それは、世界に意味を与えてしまうと、たちまち自らの存在が悪や不要物といった観念に吸収されてしまう様な状況に、君が立たされていたからに他ならない。もちろん未熟な意味ネットワークをしか構築出来ない知性にも原因はあるが(しかし中学生だった君に一体、何を要求できる?)、意味の喪失は始めから問題だったのではない。そもそもにして、君にとっては、意味とは対抗すべきものだったのだ。既存の解釈装置は役に立たないどころではなく、殆ど猛獣のように君を殺しにかかってきていた。君は追い詰められ、周囲に助け舟はなく、《物語》を殺さなければならなかった。その必要に駆られていたのだ。物語の粘り気ときたら、凄まじいものだった筈だ。それはそうだろう、僕たち人類は長い年月をかけて、君の様な人間を逃さない為に《これだけのもの》を作り上げたのだからね。君はたった一人で戦い抜き、いやに純度の高い独我論的主体の獲得と共に客観性の多くを瓦解させ、結果としては勝利を収めた。それなのに君に残された世界は、見るからにバランスを欠き、故障していたのだったね。君が行ったのがどれ程の放棄だったのか、その全体像を知ることは出来ないが、それは正視に耐えるものではない『存在の剥き出し』を出現させるには十分なものだったという訳だ。世界から意味が失われると共に、休む間もなく亡霊の侵入が始まっていた。残酷だが、それが次の戦いだった。だけど見誤ってはならない。どうやら思い違いをしているようだが、君は意味のない世界にただ受動的に放り込まれたのではない。君が望んだのだ。この殺伐とした、捩じくれた、吐き気を催す土地まで、君の足が歩いて来たのだ。結果を見れば不条理には違いないだろうが、これは紛れもなく主体的な選択なのだよ。だから『嘆き』なんて、らしくない真似はよせ。他でもない君が、何よりも増して、一切の価値が機能しなくなる、この無意味、この混濁を探し求めていたのだ。だからもう、引き返すことなんてあり得なかったのだ。もし引き返せば、『意味』は今度こそ君を八つ裂きにしただろう。君は板挟みに遭い、差し迫った状況に立たされることになった。だから次に君が成し遂げなければならなかったのは、物語的思考と詩的思考の対立を乗り越えることだった。だけど、その話はまた別の機会に譲ろうか。いや、その必要はないかも知れないな。どうやらその話は既に済んでいるようだから。