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踊り

 自分以外の誰にも知られる事のない思考や感情を言語で表すというのは何かしら奇妙な事だ。僕達は「我々は自分の内面をこの様に記述する」という社会的なルールに則り、それがあたかも内面を記述するのに相応しい言語であるかの様に体得し、言語体系を更新させて行く。だから表現が他者に伝わる為に必要な事はまずもって言語的な正確さなどではなく、同じ言語感覚を備えているかどうかである。それは部族の風習の様なものだ、というだけではまだ足りない。僕達は言語という舞台装置の上で、互いに決して触れ合う事なく自分の踊りを踊る舞踏家だ。僕達は例えば隣の人の踊りの真似をしてみて、似た様な踊りを踊る。飽きたり気に入らなかったりしたら、また別の踊りを見付けたり、自分で創造したりする。だけどその踊りの意味する所までは知る事が出来ない。僕は数々のリズムや身振りを、自分自身が動き易い様に、全き私的な体感覚に従って合致させようと試みているだけだ。だから僕は他者を目の前にすると、自分自身を、確信を持った狂人の様に感じる。