雨の日の天啓

プロローグ

 その日、僕は雨の降る中、誰もいない海岸で膨れ上がった溺死体が引き揚げられるのを一人眺めていた。性別不明の水人間の口、かつて口であったと思われるボソボソとした穴の中から鮮やかなオレンジ色の魚、カクレクマノミが一匹這い出てきた。きっとその縺れた舌をイソギンチャクと勘違いしたのだろう。恐ろしい鮫に追われて慌てて逃げ込んだのかも知れない。きっと何か滑稽な失策を犯して鮫を怒らせれてしまったのだ。まるでアニメみたいに。そう、ファインディング…なんだったっけか。思い出せないが、まぁいい、とにかく海は危険がいっぱいだ。死体処理業の人達はまだ、その可憐な小さな命に気付いていない様子だ。ドジな可愛いやつ、イソギンチャクとこんなブヨブヨに変形した醜い脂肪の塊を間違えるなんて。その時僕の頭は突然閃いた。なかなか使い物にならない僕のポンコツの頭脳だが、こうした時に限っては役に立つ。思い付いたんだ、この可愛い奴に名前を付けるなら「ニモ」しかないって。素晴らしいネーミングセンスだろう。ぴったりだ。さっそく皆に知らせてやりたくなって来た。何故かは分からないが、こいつの名前は「ニモ」以外にはありえないって思ったんだ。まるで天啓のようにその二文字が降ってきたんだ。きっと誰もが気に入ってくれるだろう、「ニモ」!ああ、可哀想な「ニモ」!しかし君を助けてやる事は僕には出来そうもない…さようなら「ニモ」!君がこれからどこに向かおうというのか知らないが、幸運を祈る。君の冒険がありありと目に浮かぶよ!この残酷な世界を無事生き延びろ「ニモ」!