スクリーンの空

パロディ

芸術の話

一定の情緒に凡ゆるモチーフが包まれ、首尾一貫した論理で正当化された世界には我慢ならない。まるで「私は妄想と現実の区別が付いておらず、その点について指摘すると癇癪を起こしますよ」と開き直って、自分で看板を背負っているようなものだ。 ポール・セ…

賭けについてなど

共同性が自明ではないということは、存在に有限な意味を与え、その意味の根拠が不安定であるということが(それを常に不安定であると考えることは出来るのだが)、乗り越えなければならない試練として立ちはだかってくる状況なのである。しかしその試練は決…

暗がりで震えるもの

暗がり、また暗がりだ。目覚めさせてくれ。僕を目覚めさせてくれ。ここから出してくれ。僕は深く沈み込んでしまった。黒く重たい泥濘に。光は途絶えた。一筋の光も通さない深みに沈み込んでしまった。浮上することは出来ない。どちらが上なのかも分からない…

浮く

春、暖かくなると胸をよぎるこの気分には見覚えがあるけれど、どこから来たものなのか分からない。僕には、思い出があまりない。言葉も回想もなく気分に浸ること、それが行き止まり。川面を反射する光、風の音、そこで立ち止まるだけ。悲しい気分。長閑な気…

演劇

人間の個人の情報量に対する言葉の無力さ。人間はそれぞれに病んでいる。人間は例外なくオリジナルに厄介だ。個々の性質を切り離し分析にかけるのは他者の経験の事後に過ぎないため、諸性質の積として最初から他者を理解しようとすることは知性の衰退である…

消し去る者

全て共有可能な文脈を剥ぎ取られた共感不可能な他者はグロテスクに映り、嫌悪感を与えずにはおかない。であるから、他者への好意とは都合の良い思考停止が生み出す柔らかい幻想への隠遁でしかない。企てられた逃避。最も容易い幸福の方法。無償の愛であって…

通り行く群衆の一人を見定めて、彼だって本を読んだり音楽を聴いたり、自殺を思うほどの悩みを持っていたり、誰かを愛したりしている人物であるなどと考える必要性は、本当のところ見出せない。彼らが僕と似たり寄ったりの実存を持っていると、仮定する意味…

風車

雑文。 ✳︎ 他人には出来て自分には出来ない、或いは著しく困難であると僕が感じることと、少なくとも同量は、他人の馬鹿げた盲目さに僕は失望を覚えている。だからそれは資質の偏りでしかないのだろう。 才能は、もしかしたら全く有用性を持つことなく消えて…

砕け散った青色

あちらからはどんな意味の断片さえ 持ち帰ることは出来ないという 呼び声に応じることはなく そして轟音が去り、雨音が戻ってくる 言葉を使って呼吸をする それは偶然だと 分かってくれるだろう 導かれることはない たとえ見覚えがあるにしても、この景色 真…

線描

塞ぎ込まれたものを、暴力の核心を、変質されたイメージによって晒し首にすること。 それは凡ゆる文化の形成に関わってきた技能らしい。芸術は不気味なものとして生まれる。 それは平和の役に立つ?人々が涙を流す?それとも熱狂する? 色彩とリズムは断末魔…

赤と黄色

比較的古いものではないけれど、過去に書いた文章。具象的に、毒性を高めて書こうと意図していたとは思う。露悪的な直接性と、言葉を目に見えるものに向けていこうとする不慣れな試みと。 *** 色々あったけど……みたいな語り口が健康の指標なのかも知れな…

俺は自殺はしないよ

自分自身を振り返ると、漠然と高校時代が一番苛烈だったように度々思うので、謎だが供養も兼ねてその頃の文章を残しておこうと思う。全く文章を書く人間ではなかったので、さして面白みもない気紛れな断片しかないけれど。 以下抜粋。 ***** 幸福にはゴ…

停泊地

最近書いた雑文の適当な羅列。 ● たとえば美しい景色を見る時、時々僕の魂はいなくなった友人と手をつないでいる。それは言うまでもなく本当の彼女ではないし、僕の思い出の中にある追憶の姿でさえない。生ぬるい倦怠や哀しみに僕を繋ぎとめようとするだけで…

形式と内容

「怒鳴ったり哀願したりするのはよせ、言語的コミュニケーションをしろだって?しかし僕はまさに怒鳴り声のような非言語的な表現の意味しか理解できないのだから、君のいう《言語的コミュニケーション》の定義など、僕を前にしては機能しないのだということ…

賽を振る

例えば「泣き喚けば人に気持ちが伝わる訳じゃない」という種類の戒めが、全く同様に、「今こうして書いている文章が誰かに理解されること」に対しても生じている。それくらい言葉が他者に伝達されることに飛躍を感じるときがある。 言語能力の有効性は、赤子…

捩れた方法で

僕は物事を理解できる。僕は現象を解釈できる。だけど僕の理解や解釈が他者のお眼鏡に叶うかどうかに関して、つまり僕の理解したと思っていることが、第三者の価値にとって『理解に値するかどうか』に関して、一切の自信がない。僕の不安はこの様な形で、凡…

追悼

幸運の意味を知っているから。不条理を知っているから。それが起きるということくらい分かっていた。だから君が自ら命を絶ったからといって、悲しむこともなかった。改めて驚くことはなかった。それは悲劇じゃなかった。僕は世界の残酷さを知っていたから。…

日差し

少し熱いくらいの日差し。時間がゆっくり進む気分。退屈を感じるのは良い兆しなのだと思う。(僕は生きているか死んでいるかの実感も湧かないまま消えて行くつもりだったのに。)空が綺麗だった。木々の色が深くなって、風が強くて、僕はさざめきが好きだっ…

解除

すぐダメになりそうだけど、出来るだけ毎日書く。そうすれば書かれた内容は自ずと、その日に偶然そう感じただけというニュアンスを含むようになる。これが数週間に一度となると、一回性の成長やら思想の変化やらといった趣になり、内容が煮詰まって重苦しく…

オタクと海に行くなどした

先日ツイッターで知り合ったオタクと海を見に行った。オフ会というやつ。 普通のブログっぽいこと(?)を書きます。 先週にもひょんなことから仲良くなった東大生のオタクと会ったばかりだと言うのに。注目すべきは、マジで人と遊ぶことが少ない僕に、一週…

ロートレアモン伯爵の文体で人間を殴るだけ

おや!君の剛健な身体に備わったミミズの様に太い神経にも、痛覚が備わっているとは知らなかった!しかし、自動機械の定められた文法に従って緊張した、普段なら盛りの付いた猫の尾の様によく動く表情筋や、僕の耳には優しいヒキガエルの様なうめき声で、僕…

中くらいの収束

これまでと違う言葉を使おうと思う。いや、そんな心構えは無意味で、だって同じ言葉を使おうとしたことなんて一度もなかった。線引きをするのは馬鹿馬鹿しい。これまでとこれから、それがずっと続いていくだけだ。ただ、もう少しだけ普通の文章を書こうと思…

変転

土埃が舞うように、それとも楕円形の光が溶けていくように。十五階建てのビルの、右から六番目の窓を照らす太陽。一歩ごとに眩くなって行く光線。円盤から聴こえるアリアに呼びかけられたように、力ないビニルは幽霊のように吹き上がる。二人の子供は水溜り…

愛していた訳でもなかった

新幹線が加速して、サティのジムノペディを聴いていたから世界が遠かった。電子版を流れる文字を眺めていたら頭痛がしてきたから目を逸らした。僕は自ずと心に立ち上がってくるものを、義務のように否定して生きていた。僕には感じるべき感情や、考えなけれ…

表面に踏み止まること

僕は映画を見ていて話の筋が分からなくなったりしない。YouTubeの下らない動画で笑ったりも出来る。音楽を聴けば、曲が自分の身体とどこかで共鳴していることが分かる。小説で作者の欺瞞や陳腐な図式性を批判することが出来る。文字の羅列を読み、それが理由…

野蛮なもの

人が他者に何らかの説明を求める時に多くの場合、自動的にある一つの暗黙の主題を設定してしまい、その時点で関係性は硬直に陥っている。それは時に最も下品な、しばしば権力を握る者による、意図的な弱者への圧迫であることもあるが、他方では自由なやり取…

色んな音に聞こえる長い溜息

サルトルは『存在と無』の中のもっとも見事な個所で、他人の実在という次元で、眼差しを機能させています。もし眼差しがなかったとしたら、他人というものは、サルトルの定義にしたがえば、客観的実在性という部分的にしか実現されえない条件にまさに依存す…

彗星

あと一歩を踏み込めば、僕はこの世界から消えてなくなる。誰かが少し背中を押しさえすれば、それは為されるだろう。目の前を轟音が通り過ぎる。だけど僕はまだ黄色い線の手前にいる。恐らく同じ時、どこか別の場所で、彼は五十八錠もの睡眠薬を飲み干した。…

すべて一つの生き物は

誰もそれを言葉に出来ないし、言葉にした所で僅かばかりでも意味あることは伝えられないということならば、分かり切っている。僕たちはすぐ隣にいる人とさえ、感情を共有しているなどと言うことは出来ないのだ。だけど現にそれが起きているこの世界で、僕に…

かつて手を伸ばせば届く距離に、暗闇は横たわっていた。記憶はゆっくりと薄くなっていく。はっきりとよく見えず理解しがたいものならば、あっという間に。定かならぬ恐怖と混乱の生々しい記憶は、良くも悪くも想像以上の速度で消え去っていく。僕たちには何…